縮小社会における出版業界の現状と、それに対するジャーナリストとしての対応
早稲田大学 政治経済学術院客員教授(MAJESTyプログラムマネージャー)
谷川 建司
 
 MAJESTyでプロジェクト・マネージャーを務めていた谷川です。修了生のみなさん、ご無沙汰しています。J-Schoolの修了生のみなさんとは、僕が担当している「映画文化研究」「映像ジャーナリズム論」の授業を履修されていた方としか接点はありませんが、毎年、多くの方々がJ-Schoolで学んだ後に社会に出ていかれるのを心強く思っています。
 
 今回、寄稿依頼があり、この10年来、日本の出版業界で起こっていることと、それに対して、本を出版していくことを生業としているいちジャーナリストとして何ができるかを考え、何を実践しているかを近況報告としてお伝えしたいと思います。
 
 縮小社会時代の日本で、出版業界は全体として余裕をなくしています。出版助成金を獲得し易く、かつ著者印税無しの慣行となっていることで出版社にとってリスクを回避できる学術書は別として、一般書の場合、確実に収益が出そうな本以外は内容が面白くても出版に漕ぎつけるハードルがどんどん高くなり、良書が出版されずに終わってしまうケースが増えています。それは文化の縮小・衰退に繫がると考えます。
 
 過去10年ほどの間に、学術書・一般書あわせて10冊以上の書籍を出してきましたが、年を追うごとに一般書のカテゴリーで本を出すことのハードルは高まり、きちんとした印税を得る形での出版契約が難しくなっていることを肌で感じてきました。
 
 現在、準備を進めているのは、昔の時代劇スター=近衛十四郎という人の魅力を伝える書籍です。近衛十四郎は、やはり俳優となった松方弘樹・目黒祐樹の父親で、殺陣(チャンバラ)のうまさでは他の追随を許さない剣豪スターでした。書籍自体は過去に拙著を出版してくれた雄山閣という出版社から10月下旬に刊行されることが決まりましたが、財政的に余裕がない弱小出版社ゆえに、予算の都合で図版頁を設けることが出来ず、現在、クラウドファンディングによってこの書籍にカラー図版頁を設けることに特化した支援を募集しています(2021年5月末まで実施中。https://motion-gallery.net/projects/konoe-jushiro)。
 
「『近衛十四郎十番勝負』出版応援プロジェクト」サイトのトップ画像
 
 今回のプロジェクトでは、映画スターの評伝という一般書のカテゴリーの中で、クラウドファンディングによって出版助成金に代わる財源を確保することを企図し、早々に目標金額をクリアーすると同時に、関心のある方々に本の内容を事前に広く告知することにも繫がるという確かな手応えを感じています。
 
 環境の変化をただ嘆くのではなく、新たなビジネスモデルを自ら切り開いていくような、攻めの姿勢を保ち続けたい、と、先輩ジャーナリストの一人として思っています。
 
同窓会報第12号記事
2021.5.14配信