政治経済学術院長より

政治経済学術院長からのメッセージ

早稲田大学政治経済学術院
大学院政治学研究科 教授
佐藤正志(Sato Seishi) 

科学技術ジャーナリスト養成から

 早稲田大学、なかでも政治経済学術院に所属する政治経済学部ならびに大学院政治学研究科は、ジャーナリズムに関する研究・教育の伝統と実績をもち、これまで多くの優れたジャーナリストを輩出してきました。 政治学研究科では、2005年度より正規の修士課程として「科学技術ジャーナリスト養成プログラム」を実施してきました。このプログラムが目指したのは、科学的成果の啓蒙や解説にとどまらず、自立的な批判性をもつジャーナリストして、専門家と市民の両方のコミュニティの境界にたって、双方向のコミュニケーションを担いうるような人材の養成です。それは、人文・社会科学と自然科学・技術とを接合した真に学際的なプロジェクトであり、同時にアカデミックな理論と現場の実践とを接合したプロジェクトです。2008年4月より、その成果を基に、さらに総合的に各専門分野のジャーナリストの養成をめざすために、ジャーナリズムコースを設置しました。「科学技術ジャーナリズム養成プログラム」は2010年度より、ジャーナリズムコースのなかに統合され、「科学技術ジャーナリズム・プログラム」「環境ジャーナリズム・プログラム」という認定プログラムとして引き続き実施しています。

真に学際的なプロジェクトとして

 先駆となった「科学技術ジャーナリスト養成プログラム」は、とりわけ政治学研究科における真に学際的な取り組みとして大きな意義をもっていました。ジャーナリズムという社会科学・人文科学系の学問の中でも複合的・応用的な分野と、自然科学・技術に関する研究とを学際的にしっかりと結びつけるプロジェクトは、まさに「マスター・サイエンス」(棟梁的学問)の伝統をもつ政治学を基盤としてこそ可能であったといえます。政治や経済、国際関係と科学技術という現代の最も重要な問題を最先端の接点で捉えられる鋭敏なジャーナリストの養成は焦眉の課題です。2008年に設置されたジャーナリズムコースは、政治や国際関係という本研究科本来の分野を基盤とするだけでなく、全学の協力により経済、司法、社会、科学技術、文芸、文化等の分野の統合を可能とする真に学際的なプロジェクトであり、他大学の追随を許さない本学独自の試みです。

もっとも先進的なJスクール・コンセプトへ

 科学技術ジャーナリスト養成プログラムの実施にあたっては、早稲田大学の伝統と実績に甘んずることなく、さらに国際的見地から最も先進的な試みとすべく、大学院におけるジャーナリズム研究・教育プログラムの基本コンセプトを策定しました。それは「ジャーナリズムコース」にも適用され、斬新で充実したカリキュラムが提供されています。この基本コンセプトは、(1)批判的思考力、(2)ジャーナリズム・メディアへの洞察、(3)専門知=専門分野についての科学的知識と哲学の理解、(4)プロフェッショナルな取材・表現力、(5)現場主義=フィールドに基づく経験、という5つの要素からなります。

アカデミアとジャーナリズムの出会いから

 今、真に求められているジャーナリストは、プロフェッショナルとして倫理、知識、技能において真に実践的な人材であるだけでなく、専門的知識と市民社会の間に相互関係を作り上げる公共的コミュニケーションの担い手として、専門性においても卓越していなければなりません。専門研究や研究者養成と切り離すことなく、高度専門職業人としてのジャーナリストの養成を目指す必要があります。5つの基本コンセプトに基づく本コースはアカデミア(専門知を探求する学問的世界)とジャーナリズムの出会う場であり、こうした場の創造を通して、本研究科は新たなジャーナリズムの形成とジャーナリストの育成に寄与し、グローバルな公共圏の開拓に貢献します。

日本初のジャーナリズム大学院の誇りをもって

 政治学研究科ジャーナリズムコースは、日本初の、そして日本で唯一の「ジャーナリズム」の学位を授与するジャーナリスト養成の大学院教育です。その意味でジャーナリズムコースは、日本初のジャーナリズム大学院です。わたくしたちはその誇りをもって、本コースをWaseda Journalism School (J-School)と呼びます。

アジアとともに学ぶジャーナリズム教育をめざして

 ジャーナリズム大学院に関して言えば、現在まで欧米のそれが世界的拠点と見なされ、アジア地域からも多くの留学生を集めています。しかし、グローバルな言論空間の多様性を確保するためには、アジアからの情報発信を強化していく必要があります。権威主義的政治からの脱却、「言論の自由」の確立や急速な経済成長がもたらす社会問題の解決といった現代アジアが直面する課題をアジアとともに学ぶジャーナリズム教育を通じて、アジアからの新たな情報発信の展開をわたくしたちはめざします。政治学研究科は、アジアの有力ジャーナリズム大学院と共同で教育・研究を進める仕組みを作り出すことで、アジアの公共圏を担う新世代ジャーナリストの人的ネットワークを創り出します。「アジアに強い日本人ジャーナリスト」と、「日本に強いアジア人ジャーナリスト」の共同育成は、日本ジャーナリズム教育の大きな社会的使命です。Jスクールは、「ジャーナリズムに強い早稲田」の全学の力を結集して、この国際的使命を担ってゆきます。