第3回キックオフ・シンポジウム

 テレビ報道に長年携わり、07年夏まで英国オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所の元研究担当ディレクターを務めたパディ・コルター氏をお招きし、「質の高い報道、専門職としてのジャーナリスト」というテーマのシンポジウムを、2007年11月25日午後2時~4時半、早稲田大学国際会議場第1会議室で開催した。日本と英国の実情を比較しつつ、どうすればジャーナリストの取材力と倫理を高めていくことができるのかについて、実のある議論が交わされた。

 早稲田Jスクール創設記念のキックオフシンポ第3弾。早稲田大学大学院政治学研究科と、新聞社・通信社・テレビ局の現役記者らで組織する「取材報道ディスカッショングループ」が共催した。

 パネリストは、パディ氏のほか、政治コミュニケーションなどを専門とする谷藤悦史・早稲田大学大学院政治学研究科教授と、報道ディスカッショングループのメンバーで、07年夏まで1年間、ロイタージャーナリズム研究所に留学していた共同通信社会部記者の澤康臣氏。司会は瀬川至朗・毎日新聞論説委員(08年1月より早稲田大学ジャーナリズムコース プログラム・マネージャー)。

 シンポジウムでは、佐藤正志・早稲田大学大学院政治学研究科長のあいさつの後、まずパディ氏が基調講演をし、英国のジャーナリズムの現状について詳しく報告した。英国では、BBC放送のGilligan事件をはじめ、浅薄でセンセーショナルなスタイルを好む政治ジャーナリズム、ウェブや24時間ニュースチャンネルが流すインパクト重視のニュースなど、ジャーナリズムの質や信頼が危機に直面するような変化が起きていると指摘。その一方で、BBCが社内記者を対象に、ネットなどでの生涯トレーニングを導入したほか、英国内でメディアについてのシンクタンクや研究機関が誕生するなど、報道の質と倫理を高める取り組みも進んでいると話した。大学が果たす役割も大きく、アカデミズムは、ジャーナリズムが現実に直面している課題を対象とすることが大切だと語った。

 基調講演を受けたパネルディスカッションは、日本と英国のジャーナリズムを比較する形で展開した。
 谷藤氏は、英国のジャーナリズムを歴史的なスパンで捉え、第1期の主張ジャーナリズム、第2期の客観ジャーナリズム、第3期の解釈・批評ジャーナリズムと腑分けした。パディ氏の指摘は、この第3期の解釈・批評ジャーナリズムの危機であり、そうした危機を克服していくためにも、専門知や倫理などを学ぶジャーナリズム大学院は重要だと語った。
 澤氏は、市民からの信頼という点で英国のジャーナリズムは課題に直面しており、それは日本の報道現場にも共通すると指摘した。マスコミ不信の中で、若い記者が萎縮し、例えば、犯罪や事故の被害者に取材に行くことをためらい、何を取材すべきかより、まず何を取材してはいけないかを考えるようになっている。取材される側の権利を尊重しつつ、どこまで取材できるかに取り組むことがプロフェッショナルではないかと述べた。
 パネル討論では、アカデミズムとジャーナリズムの連携の難しさも浮き彫りになったが、パディ氏は、英国では両者の理解は進みつつあるし、期待できると語った。会場には現役のジャーナリストも多数出席し、会場との質疑応答にも熱が入った。

 シンポジウムを通じ、大学においてアカデミズムとジャーナリズムが真に融合したジャーナリスト教育を実現していくには、アカデミズムの側もジャーナリズムの側も旧来の姿勢から脱却し、自ら変わっていかなければいけないことが痛感された。