ジャーナリズムの危機シンポジウム 第2弾「ジャーナリズムの新しいかたち」 ~非営利化するメディアと調査報道の可能性~(12/10)開催

J-Schoolシンポジウム第 2 弾「ジャーナリズムの新しいかたち~非営利化するメディア と調査報道の可能性~」が 12 月 10 日午後、早稲田大学大隈小講堂で開催された。学生や 研究者、メディア関係者ら約 150 人が参加した。既存のメディア企業の危機に直面してい る米国で、NPO(非営利組織)の調査報道組織が増えている現状が報告され、刺激的な内 容のシンポジウムとなった。

 基調講演者は、米国ワシントン DC にあるアメリカン大学大学院の「調査報道ワークシ ョップ」担当教授のチャールズ・ルイス氏(Charles Lewis)。1989 年に非営利報道組織「セ ンター・フォー・パブリック・インテグリティ」(CPI)を創設し、2008 年に、今度は大学 を拠点とした非営利報道組織「調査報道ワークショップ」を設立し、ジャーナリズムの核 心部分である調査報道を非営利の形で実践してきたフロントランナーだ。

 基調講演では、CPI が 2000 年に米エンロン社とブッシュ前大統領との資金関係をスクー プするなど、非営利組織で試みてきた調査報道の実績を紹介するとともに、非営利組織の 長所と短所、寄付金を提供してくれる財団との関わりを説明した。自由に活動ができる非 営利組織は、技術的発展との親和性も高く、独立性が担保されているために調査報道に適 していると指摘した。

 また、大学を拠点とした調査報道の重要性、大学におけるジャーナリズム教育、調査報 道の在り方についても言及し、ジャーナリズムの「新たな Eco-System(生態系)」の構築 が急務であると述べた。

 ルイス氏の講演を受け、コメンテーターである共同通信記者の澤康臣氏(早稲田大学 J-School「調査報道の方法」講師)が英国オックスフォード大学にて研究員として約一年間 過ごした背景から英国の調査報道を取り巻く状況を描写した。英国も経済的困難に直面し ており、地方紙の休刊・廃刊、記者の大量リストラ、それに伴う執筆量の過集中の現象が 表面化している。厳しい現状に対する新たな挑戦として、ベテラン調査報道記者が設立し、 寄付により運営されている英国型「調査ビューロー」を取り上げた。

 また、朝日新聞記者である奥山俊宏氏(J-School「調査報道の方法」講師)は、自身のア メリカン大学研究員の経験に基づき、非営利報道組織の日本における可能性について語っ た。米国とは異なり、日本には NPO への寄付の文化がなく、調査報道に対する一般の認識もまだまだ低く、非営利の調査報道機関の前例もない。こうした日米の環境の差を列挙して「日米の違いを言い始めると、きりがない」とする一方で、「共通点も多い」とも指摘。調査報道がもっともっと必要なのに、新聞・出版・テレビが構造不況に陥っている実情は日米共通で、また、文藝春秋の田中角栄金脈研究、朝日新聞のリクルート事件報道など調査報道の実績が多々あることや、早稲田大学 J-School など大学発の報道の試みが今年始まったことでも、日米は共通していると指摘して、可能性を示唆した。

 パネルでは、まずコーディネーターの早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコ ースの瀬川朗教授が、論点を1NPO ジャーナリズム、2大学におけるジャーナリズム実践、3日本における新しいジャーナリズム――の 3 点に整理し、それぞれの可能性と課題 について議論を進めた。米国の NPO ジャーナリズムの創設者が来日して講演したのはおそ らく初めてのことと思われる。それだけにパネリストだけでなく、会場のメディア研究者、 学生、市民からも積極的な質問、発言があった。議論は、非営利報道組織の強みと弱み、 非営利組織と新聞メディアとの連携、訴訟の問題、ジャーナリズムの公平性、寄付の税制、 記者クラブとの関連性などの点に及んだ。

 今シンポジウムでは、米国で非営利組織による調査報道が定着しつつある現状を確認し た。具体的な未来像はまだ描かれていないが、日本においてもジャーナリズムの新たな実 践、新しいかたちの構築への可能性を感じさせる議論となった。