“記者会見”について考えたこと
J-School '08年春入学
清水 洵平
 
 私はいま毎日放送という在阪テレビ局の特派員(カメラマン)として中国・上海に駐在しています。最近は香港のデモや台湾総統選挙、新型肺炎などの現場を飛び回ってきました。寄稿の依頼をいただいた際にはこれらについて書こうと考えていましたが、先月(2020年2月)、今月と開かれた総理会見を見て考えが変わりました。記者会見について自らの経験を踏まえて記したいと思います。
 
 私はあまりまじめな学生ではなかったようで、恩師に会うたび「きみは良く講義中、堂々と寝ていたよな」と指摘されます。ただ、この話には続きがあり…「だけど講義が終わるタイミングですっと起きてきて、一番に手を挙げて質問をしていた。あれは不思議だったなー」とフォロー(?)が入るのです。前半はさておき、後半については素直に褒め言葉として受け止めています。「どんな時でも必ず質問をすること」。学生時代から心がけてきたテーマで、記者になってからも肝に銘じていることです。
 
 これまでの記者経験の中で、会見について強く印象に残っているのが、橋下徹知事(当時)への取材です。知事は会見で記者を試すように逆質問をよく投げてきましたし、記事批判も日常茶飯事でした。一方で、1日2回はぶら下がり取材に応じ、記者の手が上がらなくなるまで質問に答え続けました。記者とのやり取りは市民の目が届く公開の場で行われていたため、両者の関係は常に緊張感のあるものでした。
 
 翻って今回の総理会見、驚いたことがふたつ。ひとつは質問が事前に通告されていたこと、もうひとつは再質問が認められなかったことです。
 
 質問の事前通告は北京で取材した全国人民代表大会での首相会見を想起させました。この会見でも、質問できる記者や内容が事前に調整されていたため、ヒリヒリするような生々しいやり取りは一切ありません。質問の事前通告が会見をこんなにも意味のないものにしてしまうのかと実感しました。
 
 再質問の重要さも取材で学びました。医療・防災・観光等の連携を目指して発足した関西広域連合に、当時近畿で唯一参加しなかった奈良県の知事に不参加の理由を問うた時のことです。何度聞いても抽象的な回答しか出てこなかったのでしつこく問いただすと、知事は突然私の質問を遮って「ほかの質問はないですか」と言い出したのです。質問を重ねることで、本音が見えた瞬間でした。会見を放棄した知事の姿をそのまま放送すると、大きな反響がありました。再質問ができなければ後出しじゃんけんと同じで、言ったもん勝ちを許してしまいます。
 
 私は今回の総理会見のようにひどい会見を取材した経験はありません。院生の皆さんにとっても非常に良い教材になると考えます。十分に議論を深めてもらいたいと思いますし、私も教室の端で聞きたいぐらいです。
 
駐在先、中国・上海の2020年1月の街の様子。(左)新型肺炎の影響により、実質上外出制限が出された当時(1月27日)のバス内。(右)会社に設置されたサーモグラフィー付き監視カメラ。上海市内のすべての商業施設やオフィスビルに同様の装置が設置された(写真提供:清水さん)
 
同窓会報第11号記事
2020.3.20配信